トライアスリート屋根屋、四代目屋根誠・竹内のブログ

旅好きな屋根屋でトライアスリートの竹内賀規が、トライアスロンのことやトレイルランニングのことを書くついでに、屋根のことや瓦のことを書きます。

『一瞬の風になれ』佐藤多佳子著

トライアスリート屋根屋、常滑は屋根誠の瓦葺き師・竹内です。

 

大人なってからトライアスロントレイルランニングといった超長距離耐久スポーツを始めた僕は、子どもの頃から短距離走が苦手でした。正確に言うと鈍足コンプレックス的なものを抱えたままで大人になりました。100m走のベストタイムはおそらく高校生の頃の12秒台後半。決して遅くはないはずだけど、幼なじみにやたらと速いやつが多くて、市内の中学生記録を作ったり、100m×4リレーでぶっちぎりで優勝したりしていて、そんなのが当然の中にいると、12秒台の後半なんて心に鈍足感を植え付けられるわけです。

超長距離耐久スポーツをやっているのは、長距離スポーツにおいては才能と努力の、重要度のバランスが、短距離走よりも努力のほうに振っているからです。短距離走は才能がめちゃくちゃ重要だけど、長距離スポーツは努力や練習、あるいは我慢で補える部分が多いということです。鈍足コンプレックスを抱える僕でも練習して、苦しくても我慢すれば、多少は上の順位にいける可能性があるので、その可能性に賭けることができるんです。

鈍足コンプレックスを抱える僕は、短距離の速い人たちを「けっ!才能だけで走りやがって!こっちゃあ努力してんだよ!」とか、コンプレックス丸出しの偏見の目で見ているわけですが(笑)、『一瞬の風になれ』佐藤多佳子著を読んで、少しだけ見る目が変わりました。

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物語は春高陸上部の神谷新二の一人称で語られます。中学校時代はサッカー部に所属していましたが、高校サッカー界で天才と呼ばれる兄に対し、自慢には感じるものの、同じサッカー選手としてはコンプレックスを感じていた新二は、幼なじみの天才スプリンター・連と共に春高に進学するとともに陸上部に入部します。新二は、部員みんなが仲良く、楽しい雰囲気の春高陸上部でスプリンターとして走りはじめます。ゆるい雰囲気のコーチ、みっちゃんは新二の才能に気づき「おまえらが競うようになったら、ウチはすげえチームになるよ」と、二人に声をかけます。他校との合同合宿、インターハイへの予選等を通して強くなっていく新二はついに11秒を突破し、10秒ランナーとなりますが、連はまだまだ先を行く存在です。他校のライバル、仙波や高梨との交流や、同じ陸上部の谷口若菜との恋という、高校生らしいみずみずしさも描かれています。30年前を思い出すよね…。

 

長距離ランナーの気持ちは理解できても、スプリンターの気持ちは理解できなかった僕は、この作品を読んでスプリンターの気持ちが少し理解できました。100m走の走り方も書かれていて、ただガムシャラに走っているだけではないことも分かりました。リレーというのは駅伝と同じで、チームスポーツなんだということ。

文庫の巻末には、著者の佐藤さんが取材した高校陸上部の人たちの同窓会の様子が載っていて、なるほど、この部の人たちがモデルなんだなと雰囲気が伝わってきて、より一層、新二や連たちに対する愛おしさみたいなのが強くなります。

 

短距離走もやってみたくなる作品です。