今回、僕が建築を学ぶ学生たちを淡路島に連れていったのは他でもない、瓦のことを学んでほしいかったからです。
『住宅建築』という専門誌の2020年2月号では、屋根再考というテーマで屋根の特集をしていますが、編集者の後書きには、編集者の大学時代に、教授から「今の学生は屋根で建築を考えないね」と言われたこと、編集者となってからも屋根のことを考えてこなかったことが書かれています。僕にしてみたら「教授が導いていないんじゃないの?」と思うところもありますが(笑)、やっぱり現在の大学では、屋根のことっておろそかになっているんでしょうね。今回、連れて行った学生の一人は「本葺きなんて、講義の中で歴史の一部として、ちらっと触れただけです」と言っていましたから、教える側がおろそかにしているというところは多分にあると思います。
淡路の瓦師・道上大輔さんの話しを聴くと、屋根がとても大切なことだということが理解できます。屋根はその家だけでなく、街の景観を創るのに大きく影響し、統一感のある屋根は、街を美しくします。世界遺産に登録されるような美しさを持つ街並みの多くは、同じ色の瓦が使われていますが、日本ではすでに失われている美しさであるのが事実です。道上さんが伝えようとするのは、瓦葺きの屋根を再び増やすことにより、美しい街並みや、連なる瓦屋根の下で営まれる、人々の繋がりを取り戻したいということです。
道上さんは美しい瓦を作ることができるし、僕はその美しい瓦を葺くことができます。でも、それは大工、設計士、建築士、建築家、工務店といった、施主と直接話し、屋根材を提案する立場の人が、施主に対して瓦を提案するところから始まります。道上さんたち瓦師も、僕たち葺き師も、所詮は現場の存在でしかないんです。
今回の学生たちが将来、どんな道に進むかは分かりませんが、もし、設計士や建築士といった、建築家になったときには、瓦師や葺き師にはできない仕事、街を美しくするために必要な最初の提案ができる、あるいはそれは、建築家にしかできないことで、建築家だからこそできることなんだ、ということを知ってもらいたくて、淡路島を訪れる提案をしたわけです。
未来の彼らが、一軒でも多くの瓦屋根の家を建ててくれて、美しい街並みを取り戻してくれることを。