トライアスリート屋根屋、四代目屋根誠・竹内のブログ

旅好きな屋根屋でトライアスリートの竹内賀規が、トライアスロンのことやトレイルランニングのことを書くついでに、屋根のことや瓦のことを書きます。

山岳物の傑作2選

トライアスリート屋根屋、常滑は屋根誠の竹内です。

 

トライアスロンに本気で取り組みだすまで、僕の一年はアウトドアを中心に回っていて、年間を通して山登りをしていました。夏はもちろん、冬も良い雪を求めて山に入っていました。

 

先日、世界最高峰で、ある出来事があり、いろんなことをいろんな角度から見ていて、それは起こらないであろうと思っていたことだったので、とても意外なことでした。

 

今回、紹介する二つの山岳物のうち、一つは小説なので当然フィクション。もう一つはノンフィクションです。二作とも単独もしくは小人数による無酸素での挑戦とはどういうものなのか、ということを描いています。

 

神々の山嶺(いただき)』 夢枕獏

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実在したイギリスの登山家、マロリーが人類史上初のエヴェレスト登頂に成功したかどうかの鍵となるカメラ。主人公の深町がカトマンズの登山用具店でそのカメラかもしれないコダックのカメラを手に入れる。カメラを登山用具店に売った人物を追ううちに、孤高の単独登攀者・羽生と出会う。

羽生のモデルになっているのは、おそらく長谷川恒男さん。日本山岳史に輝くクライマーで、成し遂げた功績は長谷川恒男さんと同じ部分が多いので、ほぼ間違いないと思います。先日、エヴェレストで起こった出来事の舞台となった、エヴェレスト最難ルートの一つ・南西壁に挑む羽生の激しさと人間性。フィクションとはいえ、最難ルートでの単独登攀というのは、これほどのものなのかと唸ります。山岳小説の最高峰といっても過言ではないと思います。

 

『凍(とう)』 沢木耕太郎

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日本人バックパッカーのバイブル『深夜特急』の沢木耕太郎さんが描くノンフィクション。

 

当時、世界最強のクライマーと呼ばれた山野井泰史。単独もしくは二人か三人での登山を好み、自由に山に登るためにスポンサーを着けず、自分で稼いだ金で登るという、世界的登山家としてはとても少ないタイプです。山の有名無名や高さは関係なく、7大大陸最高峰等にも興味を示さず、美しいルートを登ることのみを求める山野井さんの登山スタイルは、僕の世代で登山をやっている人間にとっては憧れです。彼の登山歴については著書『垂直の記憶 岩と雪の7章』に詳しく書かれています。

 

『凍』では8000mにわずか48m足りない世界で15番目の高峰、ギャチュンカン(7952m)の東壁に挑む過程と結果が記されています。

ギャチュンカンには、当時、やはり世界最強の女性クライマーと呼ばれた、妻の妙子さんと共に挑むのですが、二人は雪崩に巻き込まれ、遭難します。岩壁にぶら下がったまま、何度も雪崩に襲われる二人。状況のみならず、そのときの二人の、それぞれの心理状態が克明に描かれています。どんなに小さく見積もっても絶望的な状況の中、二人はどうやって生還したのか。沢木耕太郎さんの筆力が存分に発揮され、読む者はその場で共に雪崩に巻き込まれるような絶望感を味わいます

山野井夫妻がこのときのことを「壮絶」という言葉を用いて表現したとしたら、もう誰も壮絶という言葉は使えなくなると思います。それほどの「壮絶」。生還したことが分かっているのに、早く読まないと二人が死んでしまうのではないか、という恐怖と闘いながら読み進めました。

 

妙子さんはこの遭難で全ての手指を失い、手のひらだけになってしまいました。講演会で話すときの山野井さんは「妙子はドラえもんみたいな手になってしまいましたが」と冗談として話しますが、もちろん聴いている人たちは誰も笑いません。

 

その後の二人は山に戻り、南極の前人未到ルート「オルカ」を攻略しました。